大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋家庭裁判所 昭和54年(少ハ)1号 決定

少年 M・Z(昭三六・一〇・六生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。

理由

1  本件申請の要旨

(1)  少年は、昭和五三年一一月六日中等少年院豊ケ岡農工学院を仮退院し、以来名古屋保護観察所の保護観察下に入り、法定遵守事項や特別遵守事項(一、定職について辛抱強く働くこと、二、シンナーを吸入しないこと、三、夜遊びをしたり家出をしないこと)を説示された。

(2)  少年は、仮退院した当夜従前の不良友達の催す仮退院歓迎パーテーに参加・飲酒・喫煙して騒ぎ、その後仮退院して二週間後から不良仲間らと夜遊び無断外泊など不良交遊を重ね、シンナーを乱用するようになり、五四年二月四日、同月一一日、同月一二日の三回毒物及び劇物取締法違反により愛知県西枇杷島に補導された、また五三年一一月九日から実父の勤務先○○建設に建設作業員として就労し実父と一緒に通勤したが、同年一二月一日実父が所要のため休んだ際、無断怠業して二日間無断外出し、以来四、五回無断外泊して怠業し同年一二月二三日退職し、以来無為徒食し、翌五四年一月二三日から○○自動車整備会社で働いたが深夜まで不良交遊し怠業するようになり同年二月三日退職し、その後徒遊していた、五四年二月二五日から同年三月五日まで無断出奔し名古屋市内、東京都内を転々とし、家出にあたり友人から借用の単車を無免許運転した。

(3)  少年は、保護観察官、保護司の綿密な指導を受け、五三年一二月以降その生活の乱れに際し担当者との接触の強化、再三の呼出指導を受けたが、改善せず遵守事項違反を繰り返すもので、保護者の訓戒に対しても暴言をもつて応えており、家庭においての保護観察によつては到底改善更生は期待し難いので、この際少年に強い反省と自覚を促すため再度施設に収容し、矯正教育を施すことが必要である。

2  当裁判所の判断

(1)  保護観察官の少年及びその父に対する各質問調書、当審判廷における少年及び父母の各供述、当裁判所調査官の調査の結果によると、本件申請の理由の要旨(1)、(2)記載のとおりの事実が認められ、少年は保護者の協力のもと綿密な保護観察官の指導を受けながら、遵守事項違反を繰り返したものである。

(2)  少年は、当裁判所において昭和五三年七月七日毒物及び劇物取締法違反、道路交通法違反保護事件につき、度重なる近隣の不良友達とのシンナー乱用、暴走族○○○を結成しての単車の無免許による暴走運転、短期間就労するのみで長期間にわたり不良友達と徒遊していることなどから、中等少年院送致(但し短期処遇勧告)となつたものである。

しかし少年は、仮退院後保護観察所や保護者から強力な指導を受けているにもかかわらず、従前と同様近隣の不良仲間と交遊のうえシンナー乱用、無免許運転、徒遊生活、無断外泊を重ねるに至つたものである。少年は、従前から交友関係に左右されやすいうえ、もともと少年らの不良仲間は近隣の集団としての結びつきの強い不良交友仲間であつたため容易に不良集団に合流し、しかも内省が深まりにくいため自己の置かれた立場を十分理解せず、同種行動を繰り返すに至つたと思われる。

(3)  少年の精神状況、問題点は従前と基本的には同じであり、明確な反社会的な志向はないものの、不良集団という逸脱した集団に帰属して安住し、法規を軽視し社会的規範に従おうとしない傾向は改善していない。そして少年は内省が深まらず、自己を改善しようとの意欲に乏しいから、この際中等少年院に戻して収容し、その生活観をかえ、社会的に容認されうる生活を保持できる力を養う必要がある。

(4)  よつて本件申請を理由あるものと認め、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、少年院法二条により主文のとおり決定する。

(裁判官 柴田秀樹)

〔参考〕少年調査票〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例